まずお伝えしたいのは、この相談を読んで「甘え」だと感じる編集部員は一人もいなかった、ということです。新卒入職から数ヶ月での「辞めたい」は、薬剤師のキャリア相談のなかでも最も多い部類に入ります。そして相談文には、環境の問題と体調のサインの両方がはっきり表れています。順に整理していきます。
「甘えかどうか」は、答えの出ない問いです
「甘えでしょうか」という問いには、実は誰も答えられません。甘えという言葉に基準がないからです。同じ環境でも平気な人はいるでしょうし、耐えられない人もいる。それは強い・弱いの差というより、その環境との相性や置かれた条件の差です。
代わりに、答えの出る問いに置き換えてみてください。「この職場は、新人が育つ条件を満たしているか」。質問できる相手がいるか。業務量は経験に見合っているか。休息が確保されているか。相談文を読む限り、質問すればため息をつかれ、残業が常態化し、休日にも動悸が出ている。この3つがどれも満たされていない環境で数ヶ月踏ん張ってきたのですから、問題はあなたの「弱さ」ではなく条件の側にあると考えるのが自然です。
もうひとつ。6年学んだことと、この店舗で働き続けることは、切り離して構いません。薬学部で積んだものは、この職場を離れても消えません。「6年かけたのだから辞められない」という理屈は、あなたの行き先を狭める方向にしか働きません。
質問できない店舗は、教育体制が機能していない
新人が質問をためらう店舗には、共通の構造があります。処方箋枚数に対して人員がぎりぎりで、先輩が教える時間が業務として確保されていないのです。教育は本来、個人の善意ではなく店舗の業務として設計されるもの。それがない店舗では、先輩の余裕のなさが、新人への当たりの強さとして表面化します。
つまり「質問すると嫌な顔をされる」のは、あなたの聞き方の問題というより、教える余白が組織的に用意されていない結果である可能性が高い。そして、わからないことを自己流で覚えるしかない状況は、調剤過誤のリスクという意味でも健全ではありません。ここは環境の問題だと言い切ってよいところです。
「同期は頑張っているのに」という比較にも触れておきます。新卒の配属は店舗によって環境の差が大きく、同じ会社の同期でも、教育担当がついてじっくり育てられている人と、初日から戦力として数えられている人がいます。あなたに見えているのは同期の状況のごく一部ですし、条件の違う環境での頑張りは、そもそも比較の対象になりません。
辞める前に、社内で打てる手があります
複数店舗を運営する会社であれば、退職の前に「店舗異動」という選択肢があります。同じ会社でも、店舗が変われば処方箋の枚数も教育の空気もまるで違う、ということは珍しくありません。エリアマネージャーや本部の窓口に、「今の店舗では質問できる環境がなく、業務を安全に覚えられない」と、教育体制の問題として相談してみてください。感情ではなく体制の話として伝えると、会社側も動きやすくなります。相談の前に、いつ・どんな場面で困ったかを簡単にメモしておくと、話が具体的になり「本人の適応の問題」として処理されにくくなります。
新人の定着は会社にとっても課題です。まともな会社なら放置しない話ですし、相談しても取り合ってもらえないなら、それ自体が会社の体質を示す判断材料になります。
1年未満の転職は「不可能」ではない。ただし前提がある
「1年未満で辞めたら次がない」は事実ではありません。いわゆる第二新卒として早期に転職する薬剤師は一定数いて、受け入れる求人も存在する、というのが一般的な見方です。経験の浅さだけで市場から締め出されるわけではありません。この種の「次がない」という言葉は、引き止めの文脈で語られることも多く、そのまま受け取る必要はないものです。
ただし「簡単に決まる」とも書きません。早期離職の場合、面接では辞めた理由の説明がほぼ確実に問われます。前職の悪口ではなく、「教育体制の整った環境で基礎を身につけたい」のように、事実と次への希望をセットで語れるかどうかが見られます。だからこそ、店舗異動の相談など「打てる手は打った」という経過は、転職を選んだ場合にも説明の説得力になります。
もうひとつの道として、すぐに退職を決めず、有給休暇などでいったん距離を取り、落ち着いた状態で情報収集を始める方法もあります。追い詰められた状態での決断より、時間を確保してからの決断のほうが、選択肢は広く見えるものです。
体調が崩れているなら、順番が変わります
出勤前の吐き気や休日の動悸は、体が出しているはっきりしたサインです。この状態なら、キャリアの検討より先に受診を優先してください。心療内科や内科で現状をそのまま伝えれば、必要に応じて休職などの手段も見えてきます。「このくらいで病院に行くのは大げさ」と感じるかもしれませんが、その感覚自体が、疲れて判断の基準が下がっているサインであることも少なくありません。
体調を崩したまま転職活動をすると、判断力が落ちた状態で次の職場を選ぶことになります。回復が先、選択はその後。この順番だけは守ってほしいと思います。異動でも転職でも休職でも、どの道を選ぶにせよ、それを選び取る体力を取り戻すことがすべての前提になります。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- 出勤前の体調不良や動悸が続いているなら、まず受診の予定を入れたか
- 「甘えか」ではなく「新人が育つ条件があるか」で職場を見直したか
- 店舗異動やエリアマネージャー・本部への相談という選択肢を検討したか
- 相談した場合の会社の反応を、判断材料として記録しているか
- 転職を考えるなら、早期離職の理由を事実ベースで説明する準備をしているか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の規定や専門家にご確認ください。
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