「内定をもらってから師長に伝えるまで」の期間で足が止まる方は、実はとても多いです。求人を探すのも面接を受けるのも自分の中で完結しますが、退職を告げることだけは、いまの職場との関係を直接動かす行為です。ここで動けなくなるのは甘さの証拠ではなく、転職の中でいちばん重い局面に差しかかっているだけのこと。まずはその整理から始めましょう。
言い出せないのは「実行フェーズ」に入ったから
転職活動は、情報収集、応募と面接、そして退職・入職という順で進みます。前の2つは、極端に言えば職場に知られずに進められます。ところが退職の申し出だけは、目の前の相手に切り出し、その反応を受け止めなければならない。心理的な負荷の質がまったく違うのです。内定が出てから数週間動けない、という相談が珍しくないのはこのためです。
人手不足の職場で働いてきた方ほど、「自分が抜けた後」を具体的に想像できてしまいます。残るスタッフの勤務表、受け持ちの引き継ぎ、補充が来るまでの負担。それが見えるのは、責任感を持って働いてきた証拠でもあります。ただ、その想像力が自分の進路の足かせになっているなら、一度線を引き直す必要があります。
退職は権利、人員補充は管理側の仕事
雇用契約は、労働者の側から終了させることができます。期間の定めのない雇用であれば、法律上は一定の期間をおいて申し出れば退職できるとされており、退職そのものに職場の「許可」は要りません。
そして、欠員が出たときに補充を手配するのは、師長や看護部、病院運営側の仕事です。あなたの仕事ではありません。一人の退職で回らなくなる状況があるとすれば、それはぎりぎりの人員配置を続けてきた組織側の課題であって、辞める側が背負うものではないのです。
裏切り者と思われないか、という不安にも触れておきます。伝えた直後は驚かれたり、残念がられたりするかもしれません。ただ、看護の世界は転職が珍しくない業界です。数か月もすれば職場は新しい体制で回り始めます。手順を踏んで辞めた人を長く悪く言い続ける職場だとしたら、離れる判断はむしろ正しかったことになります。
切り出し方は「相談」ではなく「報告」
伝え方で面談の展開はかなり変わります。ポイントは2つあります。
まず、就業規則の確認です。退職の申し出期限(退職日の1か月前まで、など)が定められているのが一般的で、期限より余裕を持って動けば手続き上の弱みがなくなります。内定先への返事の期限から逆算すれば、伝えるべき時期はおのずと決まるはずです。
次に、面談の申し込み方。「ご相談があります」ではなく「お伝えしたいことがあります」で申し込んでください。相談という形で切り出すと、「考え直す余地のある人」として引き止めの土俵に乗ってしまいます。面談の場では、
「◯月末で退職させていただきたく、ご報告に伺いました。次の職場も決まっております」
のように、退職希望日と、すでに決定した事柄であることをセットで伝えます。申し訳なさを演出する必要はありませんが、これまでの指導への感謝を一言添えるのは自然なことです。タイミングは申し送りや急変対応と重なりにくい落ち着いた時間帯を選び、事前に「お時間をいただけますか」と一声かけておくとスムーズです。
罪悪感への対処として、引き継ぎの見通しを自分から示すのも有効です。受け持ち患者の情報整理や委員会業務の引き継ぎ資料など、「残る人の負担を減らすためにここまで準備します」と具体的に伝えられれば、誠意は十分に形になっています。職場に対して果たすべき責任は「補充要員を残すこと」ではなく「きちんと引き継ぐこと」までです。
引き止めのパターンと返し方
よくある引き止めには型があります。返答を用意しておくだけで、面談への恐怖はかなり軽くなります。
- 待遇改善の提示(給料を上げる、夜勤を減らす)——退職理由が待遇だけでないなら、「条件の問題ではなく、決めたことですので」と一貫させます。ここで揺れると話が長引きます。
- 情に訴える(あなたがいないと困る、育ててきたのに)——「ありがたいお言葉ですが、決意は変わりません」と、感謝と結論を分けて返します。困る・困らないは、前述のとおり管理側の課題です。
- 時期の引き延ばし(後任が来るまで、年度末まで)——ずるずると延びていく典型パターンです。「次の入職日が決まっておりますので」と、動かせない事情として伝えます。
どのパターンでも、その場で結論を変えないことがいちばんの防御になります。
それでも進まないときの段階
師長に伝えても取り合ってもらえない、面談自体を避けられる。そんなときは、看護部長や人事部門など一つ上のレイヤーに直接申し出て構いません。退職届を書面で提出し、控えを手元に残しておくのも有効です。口頭のやり取りだけだと「聞いていない」で流されてしまうことがありますが、書面と日付が残っていれば、申し出の事実は動かせなくなります。
それでも退職を認めないなど不当な対応が続く場合には、労働基準監督署に併設された総合労働相談コーナーなど、公的な相談窓口があります。そこまで進むケースは多くありませんが、最終手段の存在を知っているだけでも、面談に向かう気持ちは変わるはずです。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- 就業規則で退職の申し出期限を確認したか
- 内定先への返事の期限から逆算して、伝える日を決めたか
- 「相談」ではなく「報告」として面談を申し込む準備をしたか
- 退職希望日をはっきり決めたか
- 引き止めのパターン別に、返す言葉を用意したか
- 進まない場合の次の窓口(看護部長・人事・公的相談窓口)を把握しているか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の規定や専門家にご確認ください。
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