ご相談文の中に「確認の回数を増やしているつもりなのに、なぜか減りません」という一文がありました。ここに、この悩みの本質が表れているように思います。あなたはすでに努力している。それでも減らない。だから「自分の資質の問題だ」という結論に向かってしまう。けれども、努力しても減らないという事実は、原因が注意力以外のところにあるサインでもあります。順番に整理していきましょう。
「向いていないのでは」と悩めること自体が適性の一部
ミスをしても平気な人と、ミスのたびに落ち込む人。医薬品を扱う現場でどちらが危ういかといえば、明らかに前者です。ミスへの恐怖は、患者さんへの影響を具体的に想像できているからこそ生まれます。あなたが感じている苦しさは、責任感の裏返しです。
もちろん、苦しんでいれば安全だという話ではありません。ただ、危うい典型としてしばしば挙げられるのは、間違いを軽く見て報告をためらわなくなるタイプであって、間違いを恐れて確認を重ねるタイプではないのです。悩んでいることそのものを不適格の証拠として扱うのは、事実に合っていません。
ミスを「個人の注意力」だけで説明しない
医療安全の分野には、人はミスをするものだという前提から出発する考え方があります。個人の注意や気合いでミスをゼロにするのではなく、間違いが起きても患者さんに届く前に止まる仕組みを作る、という発想です。航空や製造業も含め、安全を扱う領域で広く共有されています。
この視点で職場を見直すと、確認したい要素がいくつも出てきます。
- 監査は独立した目で行われているか。調剤した本人がそのまま最終確認まで担う場面が常態化していないか
- 処方箋の枚数に対して人員は足りているか。急かされながらの調剤が日常になっていないか
- 疑問や違和感をその場で口にできる雰囲気があるか。「こんなことを聞いたら怒られる」と黙る空気はないか
- 棚の配置や薬品の並び、入力手順そのものに、間違えやすい設計が残っていないか
これらはすべて、個人の注意力とは別のレイヤーの話です。同じ人が職場を移った途端にミスが減るという現象は、この構造で説明がつきます。逆に言えば、仕組みの穴を個人の頑張りで塞ぎ続けている職場では、人を入れ替えてもミスは出続けます。
あなたのミスがどの要因でどの程度起きているのか、この記事から断定することはできません。ただ、「私がそそっかしいだけ」という一元的な説明は、まず疑ってかかっていいはずです。
自分の側でできることを、記録から始める
環境の話をしたうえで、個人として打てる手にも触れておきます。
一般によく紹介される工夫として、指差しや声出しによる確認があります。目視だけの確認に動作と発声を加えることで、流れ作業になりがちな場面に区切りをつける方法です。ただし、どんな手順であれ「これをやれば防げる」と言い切れるものではありません。手順は増やすほど形骸化しやすい面もあり、数を足すより、自分のミスが起きる場面に合ったものを選ぶことが大切です。
そのために有効なのが、ミスとヒヤリハットの記録です。日時、薬品名、そのときの状況(混雑、割り込み、時間帯、体調)を淡々とメモしていくと、傾向が見えてくることがあります。特定の時間帯に偏っている、電話対応の直後に多い、似た名称の薬品に集中している——パターンが見えれば、打ち手は「全部をもっと注意する」から「この場面にこの対策」へと具体化します。全方位に緊張し続けるより、負担も小さくなります。
記録にはもう一つ効用があります。上司と話すとき、「気をつけます」ではなく、事実に基づいた改善の相談ができることです。
環境要因が大きいなら、職場を変えることで改善する場合がある
ここまで整理してもなお、処方箋枚数に対して明らかに人が足りない、監査体制が構造的に薄い、質問すると叱責が返ってくる——そんな職場だとしたら、個人の工夫で埋められる範囲を超えています。
転職相談の場では、「ミスが多くて悩んでいたが、職場を変えたら落ち着いた」という類型が知られています。誤解のないように書くと、転職すればミスが直る、という話ではありません。同じ人でも、仕組みの整った環境に移れば結果が変わることがある、という話です。門前の診療科が変われば扱う薬も変わりますし、一人にかかる負荷も職場によってまるで違います。
いま考えてほしいのは、転職の決断そのものではなく、「自分のミスのうち、環境で説明できる部分はどれくらいあるか」という見立てです。先ほどの記録は、ここでも役に立ちます。
叱責で自信を失っているときは、一人で抱えない
もう一点、気になることがあります。上司からの信頼を失っている感覚と、毎日の落ち込みです。ミスのたびに強い叱責を受け続けると、萎縮してかえって間違いが増え、さらに叱責されるという悪循環に入ることがあります。ここまで来ると注意力の問題ではなく、職場のマネジメントと、あなた自身の心身の問題です。
眠れない、食欲がない、休日も仕事のことが頭から離れない。そうしたサインが出ているなら、社内の相談窓口や産業医、地域の労働相談窓口など、職場の外にも相談先を持ってください。心療内科の受診をためらう必要もありません。「この程度で」と感じるかもしれませんが、すり減った状態で確認作業の精度を保つことは、それ自体が難しいのです。
同じ状況にいる方へのチェックリスト
- ミスを「自分の注意力不足」以外の要因(監査体制・人員・職場の雰囲気・手順の設計)でも説明してみたか
- ミスとヒヤリハットの記録をつけ、起きる場面のパターンを探したか
- 対策を「全部に注意する」ではなく、パターンに合わせた具体策に絞れているか
- 職場の仕組みの穴を、個人の頑張りで埋め続けていないか
- 叱責による萎縮や心身の不調があるなら、職場の外の相談先を確保したか
- 環境で説明できる部分が大きいなら、職場を変える選択肢も視野に入れたか
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。詳細は勤務先の規定や専門家にご確認ください。
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