ナースコールで呼ばれるたびに怒鳴られる。家族から「看護師のくせに」と言われる。体を触られる。看護の現場で、患者や家族からの行き過ぎた言動は、長く「仕事のうち」として受け流されてきました。その扱いが、制度の上で変わりました。2026年10月1日に施行された改正で、顧客や施設の利用者などの言動から働く人を守る対策が、事業主の義務になりました。 病院で言えば、患者や家族の言動です。この記事では、新しい条文が何を定めているか、病院に何が求められているか、看護師が自分でできることを整理します。

何が変わったのか
根拠は、労働施策総合推進法です。2025年6月に公布された改正法により、2026年10月1日から、同法33条に次の定めが置かれています。
事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されることのないよう、必要な措置を講じなければならない。
条文が挙げている措置は3つです。労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備。行き過ぎた言動への対応の実効性を確保するための抑止の措置。そのほかの雇用管理上必要な措置。
病院にとって、患者や家族は「施設の利用者その他の事業に関係を有する者」にあたります。これまで職場の上司や同僚によるパワーハラスメントには対策の義務がありましたが、患者や家族の言動についても、同じように事業主が対策を講じる責任を負うことになりました。 なお、パワーハラスメントの規定は、同じ改正で第31条に移っています。
「社会通念上許容される範囲を超えた」とは
条文は、すべての苦情や要望を対象にしているわけではありません。対象になるのは、業務の性質などの事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えた言動です。
看護の場面に置き換えると、病状への不安からくる強い口調や、ケアへの正当な要望は、範囲を超えたものとは言いにくいでしょう。一方で、次のような言動は、範囲を超えていると考えられる典型です。
- 人格を否定する暴言、怒鳴り続ける、脅す
- 身体への接触、性的な発言
- 同じ要求を長時間繰り返す、土下座を求める
- SNSに写真や名前を載せると脅す
どこからが範囲を超えるかの具体的な基準は、厚生労働大臣が定める指針で示されることになっています(同条4項)。個々の場面の判断に迷うときは、指針の内容を確認するとともに、一人で決めずに病院の窓口に相談してください。
ここで大切なのは、病状や認知機能の低下が背景にある言動であっても、それを受け止める看護師の就業環境が害されてよいことにはならない、という点です。患者を責めることとは別に、看護師を守る仕組みが要る、というのが今回の改正の考え方です。
病院に求められていること
条文の3つの措置を、病院の運用に置き換えると、次のような形が考えられます。
相談の体制。患者や家族の言動について、看護師が相談できる窓口が決まっていること。その窓口が、相談を受けたあと実際に動くこと。
抑止の措置。複数人で対応する、担当を交代する、警備や事務と連携する、院内の掲示で行き過ぎた言動に対応する方針を示す、といった取り組み。
その他の措置。被害を受けた看護師へのケア、記録の様式の整備、職員への研修など。
同条2項は、労働者が相談したことや、対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとしています。「そのくらいで相談するなんて」と扱われることを心配して、黙っている必要はありません。
看護師ができること
制度ができても、使わなければ現場は変わりません。自分を守るためにできることを挙げます。
記録を残すこと。 日時、場所、相手、言われたことやされたこと、居合わせた人、その後の影響。言葉はできるだけそのまま書きます。看護記録とは別に、自分のメモとして残してください。
一人で対応しないこと。怒鳴られている場面では、その場を離れて応援を呼ぶことを、ためらわないでください。担当の交代を申し出ることも、正当な対応です。
相談すること。まず師長に、そして病院の相談窓口に。窓口がどこか分からなければ、そのこと自体を尋ねてください。改正後は、窓口を整えることが病院の義務です。
病院の中で対応されない場合は、各都道府県労働局の雇用環境・均等部門に相談できます。労働施策総合推進法にもとづく事項を扱う窓口です。
同じ職場で長く続いている場合や、体調に影響が出ている場合は、働く場所を見直すことも選択肢です。特定の部署や患者との関係で続いているなら、異動や担当の変更を希望することもできます。職場の人間関係全般については転職で人間関係はリセットできるかで、体調を崩して離れた場合の次の一歩は体調不良で退職した看護師の転職で整理しています。
よくある質問
認知症の患者さんからの暴言も対象になりますか
条文は、言動の原因を限定していません。社会通念上許容される範囲を超えた言動により就業環境が害されないよう、事業主が措置を講じることを求めています。認知機能の低下が背景にあっても、複数人での対応や担当の調整など、看護師を守る措置は必要です。具体的な判断の基準は、厚生労働大臣の指針で示されます。
薬局やクリニックで働く場合も同じですか
労働施策総合推進法33条は、事業の種類を限定していません。薬局やクリニックの事業主も、患者や家族などの言動について同じ措置を講じる義務を負います。
病院に相談窓口がありません。どうすればいいですか
2026年10月1日以降は、相談に応じる体制の整備が事業主の義務です。まず師長や看護部に、どこに相談すればよいかを尋ねてください。それでも窓口が示されない場合は、各都道府県労働局の雇用環境・均等部門に相談できます。
まとめ
- 2026年10月1日施行の改正で、顧客や施設の利用者などの行き過ぎた言動から労働者を守る措置が、事業主の義務になった(労働施策総合推進法33条)
- 病院では、患者や家族の言動がこれにあたる。パワハラの規定は同じ改正で31条に移った
- 求められる措置は、相談体制の整備、抑止の措置、その他の雇用管理上の措置。具体的な基準は厚生労働大臣の指針で示される
- 相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されている
- 看護師ができるのは、記録を残すこと、一人で対応しないこと、窓口に相談すること
参考にした一次資料
- e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第31条・第33条(2026年10月1日施行の改正後の条文)
本文の条文は、この原典を編集部が直接確認したうえで引用しています。指針の内容は、公表に合わせて追記します。
制度や規定に関する記載は一般的な説明です。個別の状況については、勤務先の相談窓口や労働局、専門家にご確認ください。
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